苦しい。

刺された脇腹からの出血が止まりません。床の血溜りが次第に大きくなってきています。

まずは、記念すべき10000カウントを踏まれた名無しの権兵衛さんに、おめでとうを言っておきましょう。

そして、これまでずっと隠してきた一つの真実を、今から告白しようと思います。

あまり時間は残されておらず、急いでこれを書き上げてアップロードしなければなりません。

私は、郎(仮名)、です。

他には、狂、と、気、と、太、がいました。

つまり、このサイトを運営している狂気太郎は、

この四人が代わる代わる書き込むことによって構成された架空の人物だったのです。

私達は学生時代からの友人でした。

狂は気紛れで、その後先考えない滅茶苦茶な言動のため、皆にサイコ野郎と呼ばれていました。

気は、人の世話を焼きたがる優しい性格ですが、自己主張に乏しい面がありました。

太は単細胞だが正直者で、その素直なところが皆に好かれていました。

そして私、郎は、いつも物事を悪いほうにばかり考えてしまい、自分を追い詰める性質でした。

全く違う性格の友人達に囲まれて、私はひどく落ち込んだ時に何度も救われてきたように思います。

一年前、太がインターネットを始め、契約したプロバイダのDTIが無料でホームページスペースを提供していることを知ったのが全ての始まりでした。

いつも太の部屋に集合する私達は、誰も作ったことがないような変なホームページを作ることを計画しました。

四人で一人の人格を作るというアイデアは狂によるものでした。

私達は面白がって参加することにしたのです。

こんなことになるとも知らずに。

掲載されていた小説は、狂の出したテーマを私が文章にするという形でした。

サイトのデザインとHTMLの作成は太がやっていました。

掲示板へのレスは四人で考えましたが、収集がつかなくなった時は主に気が纏める役目でした。

独り言は、四人で交互に書いていました。口調も内容も日によってまちまちなのは、そういう理由によるのです。

尚、次、と三、は、二人とも太の実の弟です。

彼らは太のいない隙に時々書き込んでいました。

太は良い奴なのですが、次は陰湿、三は狂暴で、兄弟はいつもいがみ合っていました。

さて、ホームページを始めてみると、意外に沢山の人が訪れてくれ、私達はサイトの更新をいつも楽しみにしておりました。

私達が四人であることに誰も気づかず、私達はディスプレイの前でいつもほくそ笑んでいたものです。

破滅のきっかけは、カウンタが予想外に伸び、

10000カウントという物凄い値に達してしまったことでした。

興奮した狂が、記念すべきカウントだからとてつもないイベントをやろうと言い出したのです。

彼のアイデアは色々あって、サイトに無意味な言葉を羅列させるといういつものパターンから、

ページを全て真っ黒にしてしまおうという自虐的なもの、

ついには現実界に飛び出して、街中で「狂気太郎!狂気太郎!」と叫びながら四人で走り回ろうなどという奇態なアイデアが飛び出したのでした。

ですが、狂のアイデアはそれだけには留まりませんでした。

「いや、そんな小さなことでは話題にならない」と狂は言いました。

狂は、死人が出るくらいの大きな事件を起こそうと言うのです。

駅のホームで、列車が到着する間際に人を線路へ突き落として、「狂気太郎!」と叫ぶか、

四人で刃物を持ち出して、やはり「狂気太郎!」と叫びながら通り魔を行おうと主張するのです。

彼が本気なのは、間違いありませんでした。

勿論私達は反対しました。狂はまさか自分のアイデアが否定されるとは思ってもみなかったのでしょう、

彼の顔は次第にどす黒い憎悪に歪んでいきました。

そして狂はいきなり懐からサバイバルナイフを取り出したのです。

今、私は太の部屋でこの文章を打ち込んでいます。

太がいなくても、表紙のHTMLファイルを編集してアップロードするくらいなら私にも出来るでしょう。

太は死にました。

部屋には三つの死体が転がっています。太と、気と、狂の死体です。

狂は気の首筋を切り、太の胸を刺し、私の脇腹を抉りました。

狂は、瀕死の太によって首を絞められて死にました。

私も、もう、長くはないでしょう。

意識がだんだん朦朧としてきました。

ドアの外で、言い争う声が聞こえています。

どうやら次と三が、この部屋の様子を窺って、太が死んだことを知ったようです。

或いは二人はこの部屋に盗聴器を仕掛けていたのかも知れません。

二人は、兄の後釜を狙い争っているようです。

もう時間がない。ファイルを保存しなければ。

今、ドアの外で悲鳴が上がりました。

次の声みたいです。

どうやら、勝者は三となったようでした。

「おい、開けろ」と、三が激しくドアを叩いています。私はドアに鍵をかけていました。

三は、私も殺すつもりのようです。放っておいても死ぬ身なのに。

ファイルを保存する前に、最後に一つだけうわっ、ドアが開いた!

名無しの権兵衛さん、10000カウントおめでとうそして皆さんありがウギャアアアアアアアアアアア!

 

 

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