男は床に置かれた金属の物体を見つめていた。

　直径八センチ、高さ四センチの円筒形をしたその物体は、側面に紙が巻かれ、「赤貝」という文字が印刷されていた。更に上面には、「￥１０８」というシールが張られていた。

　男は物体に向かって、呻くような声で問うた。

「缶詰めさん……リクエストは……」

　物体は動かなかった。

　男はもう一度、物体に問いかけた。

「缶詰めさん……リクエストをくれないと困りますよ……」

　物体は動かなかった。

　男は土下座して、物体に頭を下げた。

「缶詰めさん……どうして何も言ってくれないんです」

　物体はやはり、動かなかった。

　男は物体ににじり寄り、人差し指を突きつけた。

「缶詰めさん、何もリクエストしてくれないのなら、こちらにも考えがありますよ」

　物体は動かない。

　男はポケットから湾曲した刃のついた器具を取り出した。

「缶詰めさん、何も言ってくれないなら、内臓を引き摺り出してしまいますよ」

　物体はそれでも動かない。

　男は物体に器具を当て、平坦な上面に切れ目を入れていった。キョリ、キョリ、と、不気味な音がする。

「ほうら、内臓が見えてきましたよ」

　上面がめくれ上がり、暗い茶色のドロドロしたものが覗いた。

「ほらほら、内臓を引き摺り出してやる」

　男は残忍な笑みを浮かべながら、物体の中身を底の深い小皿に零していった。茶色のドロドロに包まれて、幾つもの奇妙な形をしたものが転がり落ちた。

「缶詰めさん、これでも何もリクエストしてくれないのですね。ならばこの内臓を拷問にかけてやる」

　男は小皿に薄い透明な布をかけた。四角い機械の蓋を開け、その中に小皿を入れる。

　男は、機械のスイッチを押した。ブォーンという唸りが機械から洩れる。

「ほうれ、熱いだろう、熱いだろう」

　男はニヤニヤしながら中で回転する小皿を見ていた。空洞になった物体は動かない。

　チーン、と、高い音が聞こえ、機械が止まった。

　小皿を取り出し透明な布を取り、男は物体に告げた。

「缶詰めさん、何もリクエストしてくれないなら、あなたの内臓を食べてしまいますよ」

　物体は動かなかった。

「ようし、食べてやる」

　男は細長い木製の棒を二本、取り出した。

「頂きます」

　男は両手を合わせて神様に感謝しながら、二本の棒を使って美味しく頂いた。