「小説を書かなきゃなあ」
男は呟きながらパソコンで『ディアブロU』をやっていた。プレイしてもう二週間以上が経ったが、それでもやめられない。バーバリアンで行き詰ったのでネクロマンサーで再び始め、レベルがバーバリアンを追い越してしまった。すると今度は気が変わってバーバリアンを再開する。いつになったら終わるのか、男は焦っているが全く見通しが立たなかった。
呼び鈴が鳴った。男は一旦ディアブロを中断し、なまった体を引き摺って玄関に向かった。
ドアを開けると一人の女が立っていた。
「どなたですか」
男が尋ねると、女は満面の笑みを浮かべて言った。
「狂気太郎さん、私はシマといいます。210000カウント取りました」
「はあ、そうですか」
「キリ番ですよね。とうとう私の夢が叶えて頂けるのでしょうか」
「はあ、そうですか」
「私を殺して頂けないでしょうか」
「はあ」
「殺し方はお任せします。血みどろでも、じわじわといたぶって頂いても」
「はあ、分かりました。ネタを考えますのでちょっと待ってて下さいね」
期待に顔を輝かせている女を置いて、男はドアを閉めて鍵を掛けた。
「キリ番イベントをしなきゃなあ」
男は再びパソコンに向かった。しかし起動したのはやはりディアブロだった。バーバリアンでレベルを上げていく。考え方を変え、体力より防御力を上げ、特殊能力よりダメージの大きさを優先して剣を選択する。以前よりも死ににくくなったようだ。男はほくそ笑んだ。これならあの三人のボスにも勝てるかも知れない。
男は夢中でゲームをし続けた。腕が痛くなっても肩が凝っても続けた。急に睡魔に襲われ男は眠った。四時間寝るとまた起き出してゲームを続けた。食事は取り置きのカップラーメンで済ませた。ついでにダイエットだとばかりに昼食は抜く。ウーロン茶がなくなったので水道の水で我慢する。風呂にも入らない。着替えない。ボロボロになりながらゲームを続けていく。
三ヶ月経って、男は漸く飽きた。
「久々に外に出るか」
男は呟いた。衰弱しきった体で這うようにして男は玄関に向かった。
なんとか立ち上がってドアを開けると、何かが玄関の前にぶら下がっている。
女が、首を吊っていた。死んでどれだけ経つのか凄い臭いだ。女の眼球が腐り落ち、蛆のたかった眼窩が男を睨んでいた。
男は無表情にドアを閉め、保健所に電話した。
「家の前に腐乱死体があるので、片づけてくれませんか」
男はまたディアブロがやりたくなったので、パソコンに向かった。