自殺道

 

 わるちゅ三郎(仮名)は『自殺の店』と書かれた赤い看板を見上げた。窓には黒いフィルタが貼ってあり店内の様子が分からない。わるちゅ三郎(仮名)は取り敢えずペンキの剥げたドアを開け、中に足を踏み入れた。

 店内は十五畳ほどの広さで、雑多な器具が並んでいた。鉈やチェーンソーや火炎放射器、向こうの隅にはギロチン台が見える。

「いらっしゃいませ」

 ビニールのエプロンを着けた男がわるちゅ三郎(仮名)に声をかけてきた。エプロンには薄い赤色の染みが残っている。

「ここはどういうお店なんですか」

 わるちゅ三郎(仮名)が尋ねると、エプロン男は穏やかに微笑んだ。

「自殺の店です。あなたにはこちらなど如何でしょう」

 エプロン男が指差したのはギロチン台だった。重い刃に繋がった紐は、何故か受刑者の手首が嵌まる場所近くを通っている。

「ハサミを持って位置につき、ご自分で紐を切れば一瞬で自殺完了です」

 嬉しそうに告げるエプロン男に、わるちゅ三郎(仮名)は首を振った。

「ちょっと遠慮しておきます」

「オーソドックス過ぎますかね。ではこちらなど如何ですか。趣向を凝らしてありますよ」

 次にエプロン男が指差したのは、天井まで届きそうな滑り台だった。その終点部を金属の大きな箱が覆ってある。

 わるちゅ三郎(仮名)は箱の内部を覗き込んでみた。細いワイヤーが、碁盤目状に張り巡らされていた。

 エプロン男は自信満々に説明した。

「滑り台型人間トコロテン器です。子供の頃を思い出しながら黄泉路へ滑るのも一興かと」

「ちょっと痛そうですね」

 わるちゅ三郎(仮名)が背を向けようとするのをエプロン男がすぐに引き留めた。

「痛いのがお嫌でしたらこちらはどうでしょう」

 棚の奥から取り出したのは、どす黒い液体の入った瓶だった。ラベルに髑髏の絵が描いてある。

「これを飲めば一週間かけてゆっくり全身が腐っていき、ヘドロのようになって死ねます。痛みは全くありませんよ」

「失礼します」

 わるちゅ三郎(仮名)は出口に向かったが、その肩を凄い力でエプロン男が掴んだ。

「生きてここを出られると思っているのか。野郎ども、やっちまえっ」

 エプロン男が怒鳴ると、店の奥から雄叫びを上げながら大勢の男達が飛び出してきた。手に手に血塗れの刃物を持って……。

 

 

 路地裏に転がるわるちゅ三郎(仮名)のバラバラ死体を、刑事は無表情に見下ろしていた。

「自殺ですね」

 警官の一人が言った。

「ああ……自殺だな」

 刑事が答えた。

 

 

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