久路四郎三十六才(仮名)は広い部屋に立っていた。壁も床も天井も、全てが大理石で出来ている。シャンデリアは冷たい光を投げかけていた。
「ようこそいらっしゃいました」
タキシードを着た男が丁重に頭を下げた。部屋にいるのは久路四郎三十六才(仮名)とタキシードの男だけだ。
「ここは何の部屋ですか」
久路四郎三十六才(仮名)が尋ねると、タキシードの男は淡い微笑を浮かべた。
「運命を選ぶ部屋です。この部屋の出口は三十あります。そのうちの一つをあなたに選んで頂くのですよ」
部屋の壁は、ドアで埋め尽くされていた。鋼鉄製の黒いドアで、計三十個ある。
タキシードの男が説明を始めた。
「ドアの一つは、向こう側に五十本の焼きごてを持った拷問師が待っています。あなたはじっくりまんべんなく全身を焼かれて死ぬのです」
ジュウッ、と、何かが焦げるような音が室外の何処かから聞こえた。
「別のドアには電気ドリルを持った拷問師が待っています。あなたは全身に無数の穴を開けられて死ぬのです」
何処かから電気ドリルの唸りが聞こえる。
「更に別のドアには大型の卸し金を持った拷問師が待っています」
ゴリゴリと何かをすり下ろす音。
「また別のドアでは大きな漏斗をあなたの口に突っ込んで水責めに」
ゴボボボ。
「別のドアでは鞭を持った拷問師が」ピシリピシリ「別のドアでは鋼鉄のプロペラがあなたをミンチに」ブーン「別のドアでは木の杭であなたを串刺しに、別のドアではメスを持った医師があなたを生体解剖、別のドアでは万力であなたの頭を潰し、別のドアでは絞首刑、別のドアでは電気椅子、別のドアでは鋸で手足を切断、別のドアでは硫酸風呂、別のドアでは手足を馬に引っ張らせてカランバに、別のドアではピラニアが襲い、ええっと、やっと半分ですね、別のドアでは豚に食われ、別のドアでは馬に蹴られ、別のドアでは金槌で殴られ、別のドアでは筋弛緩剤を打たれ、別のドアでは豆腐の角に頭をぶつけ、別のドアでは失恋のあまりショック死、別のドアでは老衰で死に、別のドアでは笑い死に、別のドアでは狂い死に、別のドアではゲームのやり過ぎで死に、はあ、はあ、別のドアでは人間砲弾としてイラクに撃ち込まれ、別のドアでは人間の盾となり、別のドアではブッシュを撲殺して射殺され、別のドアでは何が何だかよく分からずに死にます……ふう」
タキシードの男は額の汗を拭ってから荒い息を整え、そしてにっこりと笑って言った。
「最後のドアでは絶世の美女があなたを待っていますよ。さあ、どのドアを選ばれますか」
久路四郎三十六才(仮名)は四方のドアを見回した。鋼鉄のドアはどれも同じように見える。しかしどれを選ぶかによって死に様は全く違ってしまうのだ。
暫く考えた末、久路四郎三十六才(仮名)は真正面のドアを指差した。
「これにします」
「良い道をお選びになりましたね。ではどうぞ、お進み下さい」
タキシードの男がそのドアを開けた。久路四郎三十六才(仮名)はドアの向こう側へ足を踏み入れ、そして凍りついた。
ドアの奥は、更に広い部屋だった。振り返ると、自分の通ってきたドアの他にも幾つも鋼鉄のドアが並んでいる。
三十のドアは、全て同じ空間に繋がっているのだった。
そこには何十人もの絶世の美女が様々な拷問器具を携えて待っていた。彼女達は嬌声を上げながら一斉に久路四郎三十六才(仮名)に襲い掛かった。久路四郎三十六才(仮名)は焼きごてで皮膚を焼かれ電気ドリルで穴を開けられ卸し金で体を削られ漏斗を口に突っ込まれ水責めにされ鞭で叩かれプロペラで肉片を飛ばし木の杭に体を貫かれ医師に解剖され万力で頭を挟まれ首を縄で絞められ電気にかけられ鋸で足を落とされ硫酸風呂に浸けられ両腕を馬に引っ張られピラニアに齧られ豚に食われ馬に蹴られ筋弛緩剤を打たれ豆腐をぶつけられ失恋して年を取り漫才で笑わされ発狂しディアブロ2に熱中し大砲に詰められながら人間の盾となりブッシュを殴って何が何だか分からぬまま死んでいった。