カキ氷道

 

 猛暑だ。狂気五十万郎の定食屋にも『氷』の貼り紙をするようになった。

「こんにちはー。カキ氷作ってくれる」

 近所に住む母子が店を訪れた。

「おや、いらっしゃい。お久しぶりですねえ」

「そうね、なかなか忙しくて。うちの夫もまだ見つからないし」

 額の汗を拭きながら母親が答える。

「旦那さん、まだ行方不明なんですか。もうどのくらい経ちますかねえ」

「そろそろ半年よ。全く、何処をほっつき歩いてんだか。お陰でこっちは生活が大変よ。……生きてたら、今日が五十才の誕生日なんだけどね」

「そうですか。ヨウ君は何才だったかな」

 狂気五十万郎が声をかけると子供はモジモジしながら答えた。

「六才」

「そうかあ。もう小学校だねえ」

「それで、カキ氷二つお願いね。どっちもイチゴで」

「分かりました。旦那さんのお誕生日ですから、特別大盛でお作りしましょうね」

 狂気五十万郎は冷凍庫に向かった。肉やら魚やら凍らせている間に、氷のブロックも並べてある。

「大きなのは……お」

 冷凍庫の奥に、服を着た大きな塊があった。

 膝を抱えた姿勢で鎮座していたのは、丁度五十才くらいの、男の、凍死体だった。虚ろな目が宙を睨んだまま固まっている。

 狂気五十万郎はウンウン唸りながらやっとのことでそれを抱え上げ、手回し式の巨大カキ氷機の中に落とし込んだ。ゴヅン、と重い音がした。

 狂気五十万郎は、精魂込めて、カキ氷機のレバーを回し始めた。

 ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ、ショリ。

 ショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリ中略ショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリショリ、ショリ、ショリショリ、ショリ、シュカ、シュカ、シュ……。

 五十万回ほど回した頃、中身を全部使え終えた。二つの大きな器にカキ氷が山盛りとなった。ちょっと赤い色をしていたが、狂気五十万郎がイチゴシロップをかけると分からなくなった。更に練乳をかけ、テーブルに抱えていった。

「わあ、大きい」

 子供は喜んでいたが、数口食べるうちに顔をしかめた。

「ママ、これちょっと変な味」

「まあ、そんなこと言うんじゃありませんよ」

 母親が子供の頭を掌で叩いた。自分も食べてから狂気五十万郎に愛想笑いを見せた。

「とっても美味しいですよ」

「ありがとうございます」

 狂気五十万郎は穏やかに微笑して、母と子を見守っていた。

 

 

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