第七話 麻薬は宗教

 

  一

 

 水上麗羅は約百メートル四方の空き地を借りて、その中で独り、修理済みのキャンピングカーを運転していた。

 敷地は高い塀で囲われ、更に隠蔽結界に覆われているため、近くを通る一般人は中の様子を窺うことも出来ず興味も抱かなかった。

 草を綺麗に刈り取った後の地面には道路を模した白線が引かれ、交差点やきつめのカーブまで設けられていた。また、その道路に接した白い四角は車庫を想定しているようだ。四角を幾つも並べた駐車場スペースもあった。キャンピングカーがぎりぎり停められる程度の幅になっている。

 今日の水上は車庫入れに注力していた。探偵事務所の業務を終えて、午後七時から練習を始め、暗くなったため大型屋外照明で敷地内を照らしている。

 常人を遥かに超える視覚聴覚を駆使し、更には魔術的感覚まで使って周囲の空間把握に努める。車庫の前を一旦通り過ぎ、前回成功した時の距離で停止する。

 バックに切り替え、ハンドルを切りながらゆっくりと後退し……クワッという鳴き声が聞こえ即座にブレーキを踏んだ。車の右後端が四角の線からはみ出したのを、すぐ近くで監視している使い魔の烏が警告したのだ。烏の視覚を借りて確認してみる。もし車庫が本物で壁に囲まれていたらぶつかっていたようだ。

 水上は目を見開き、端正な顔から血の気が引いていく。静かに深呼吸し、車を前進させる。

 再びバックに切り替え、今度はさっきより少し早めにハンドルを切った。

 クワッという鳴き声がまた聞こえ、水上はすぐブレーキを踏んだ。再び烏の目で確認する。今度は左側面を擦ったらしい。

「なんで……いやなんとなくまずいかもとは思ったけど。でもちょっと、行けるかな、って……」

 聞く者のない愚痴を呟いて、溜め息をついた後、彼女は車を前進させた。

 三回目は何処もぶつけず車庫入れに成功した。

「よしっ」

 小さくガッツポーズをして、水上はまた発進させた。想定歩道への乗り上げに注意しつつ交差点を左折し、狭いカーブを進み、また車庫前に戻ってくる。

 そして車庫入れチャレンジ。さっきは成功したのに、また烏の警告が飛ぶ。横に柱か何か立っていた方がサイドミラーで確認しやすいのだが、今みたいな地面に線を引いているだけの駐車場もあるので頼るべきではないという判断だ。

 今回は、成功まで四度失敗した。

 次に四角が並ぶ駐車場エリアに入る。大型車両用の四角は端にあり、頭から入るのは無理だ。駐車場エリアの外から既にバックで入っていかないといけない。

 想定される何かにぶつかりそうになるとそばで見守る烏が警告し、そのたびに水上はブレーキをかけ、烏視点で確認し、やり直した。

 今日の練習は四時間で終了した。成功・失敗回数を集計すると、車庫入れ・駐車の成功率は昨日より約七パーセント下がっていたが、練習を始めた十日前から比べると十六パーセント高かった。

「だから、私は成長している。苦手だったものを克服しつつある。間違いなく、成長している」

 水上麗羅は目を閉じてゆっくりと息を吐いた後、車内の冷蔵庫から缶のコーラを取り出して一気に飲み干した。

 

 

  二

 

「近頃、おかしな麻薬……というかドラッグが流行ってましてね」

 警視庁捜査一課の横井刑事が言った。四十才前後で、やや陰のある二枚目だ。しばしばその口元はニヒルな笑みを浮かべる。

 二ヶ月前、虹夢島で悪夢のような出来事に巻き込まれ、住民や同僚と延々殺し合う『集団幻覚』を見た後で、その時の依頼人であった同僚の御厨刑事に撃たれた男だ。重体であったがなんとか回復し、職場復帰を果たしていた。

「ふうむ、ドラッグですか。おかしな、というと、どの程度おかしいんでしょうね。人体が爆発するくらいでしょうか」

 いつの間にかローテーブルに用意されていたおにぎりせんべいに手を伸ばしつつ、大路幸太郎が尋ねる。

「いやさすがに爆発まではしませんがね。どうも、そのドラッグを使ってると、狂暴になるみたいなんですよ。酩酊状態かと思えば、警官が声をかけると叫び声上げていきなり襲いかかってきたり。それで首の骨を折られて警官が一人死んでます」

「ほほう。そのドラッグはパワーアップする成分が含まれているんですかね」

「それが、分析に出してもよく分からなかったんですよ。九十五パーセントはただの小麦粉で、三パーセントは植物油、残り二パーセントが分析不能な未知の物質だそうで」

「分析不能な未知の物質。なるほど、ロマンがありますね」

 大路が無責任な感想を述べ、横井は苦笑した。

「それに加えて。私が直接見た訳じゃないんですがね。逃げたジャンキーの腕から、触手みたいなものが生えていたというんですよ。腕を折られた警官は、触手に巻きつかれたという痕が確かに残っていましたね。ま、ロープとか鞭とかだったのかも知れませんが。薬物対策課の警官以外に民間人にも目撃者がいるんですよね」

「ドラッグで、触手、ねえ……。なんか嫌な予感がするよなあ」

 机に足を投げ出して、昼間からアタリメをつまみに焼酎を飲んでいた鋼源十郎が顔をしかめた。

「刑事さん。その薬物のサンプルはお持ちですか」

 水上麗羅が尋ねた。

「持ってきてますよ。本当はダメなんですがね。皆さんには実物をお見せした方がいいでしょうから」

 横井はスーツのポケットからビニール袋を取り出した。中に一辺三センチほどの四角いシートのようなものが入っていた。薄茶色で、一部切り取って分析に使ったのだろう、角が欠けている。

 鋼と水上がすぐに寄ってきて、近くで観察する。風原真も一緒に来て見ているが、何も分かってなさそうだ。

「この匂い……」

 ビニール越しに嗅ぎ取ったらしく、水上が眉をひそめた。

「甘酸っぱい匂いがするでしょう。『青リンゴ』という隠語で呼ばれているそうですよ」

 横井が言った。

「何処で、何人くらいが使っているか分かりますか」

「見つかったのは渋谷と池袋方面ですね。東京都以外では今のところ報告はないようです。まだそこまで目立っている訳ではないのではっきりしませんが、少なくとも数百人規模といったところでしょうか」

「千人超えてると、まずいんだよなあ。いや、染まっちまった奴らがどれだけいるかって話か」

 鋼が渋い顔で分かったようなことを言う。

「ということは、このドラッグのことをご存じなんですか」

 横井が尋ねるが、水上がまた別のことを聞いた。

「このドラッグが出回り始めたのはいつ頃でしょう」

「そうですね……。三ヶ月ほど前に新型ドラッグの噂があり、本格的に乱用者が見つかり始めたのは二週間ほど前から、ですね」

 水上は大路の耳に小声で何事か囁いた。「ふむ」と頷き、ニコリと笑って大路は横井に告げる。

「分かりました。お引き受けしましょう。で、刑事さんの依頼としては具体的にどんなものをお求めですか。ドラッグ蔓延の大元を摘発してご自分の実績になさりたいとか」

「いえ……ここに来た時はそういう下心もちょっとありましたけどね。皆さんの反応を見るとどうも……ヤバい案件のようで。どういう形でも広めてる元凶をやっつけて、死んだ同僚の仇を討てて、東京を平和にして頂けるのならそれでいいですよ」

 横井は虹夢島での体験を経て、人生観が変化しているのかも知れない。最終的にはチャラになったが、自分の手で何人も殺したり、また殺されたりもしているのだから。

「素晴らしい心意気ですっ。では依頼料は割り引きして五千円にしましょう」

 大路はしばしば自分の裁量で料金を割り引きする。所員に払っている給料とかキャンピングカーの購入費とか、全体として大幅な赤字になっている筈だが、適当に買った宝くじの当選金などで大路は金があり余っていた。

「よろしくお願いしますね」

 他に必要な情報を提供した後、横井刑事は立ち去ろうとして、ふと振り返る。

「……で、このドラッグ、何なんです」

「そうですねえ。おそらく信じられないでしょうからお教えしますが、『邪神の欠片』です」

「邪神の欠片。そうですか。ハハハッ。では、失礼」

 大路の答えに横井は笑いながら出ていった。

「本当なんだよなあ」

 鋼が嘆息し、自分の机に戻って残りの焼酎をラッパ飲みする。

「邪神の欠片なんですか」

 風原が改めて尋ねる。

「バエスクって触手の化けモンがいてなあ。世界の外に棲んでるんだが。そいつを信仰してる頭のおかしな奴らがいるのさ。バエスキア教団っつってな」

 その後を水上が継いで説明する。

「あの甘酸っぱい匂いのするシートには、バエスクの触手を刻んだものが混ぜ込まれているの。それを新しいドラッグだと言って一般人に配る。バエスキアの連中がよくやる手口ね」

「配ったら、何かいいことがあるんですか」

「バエスクを『こちら側』に呼び込む手助けになるの。触手の欠片を取り込むと凄く気持ちがいいらしいのだけれど、繰り返し取り込むうちに少しずつ肉体が変質し、バエスクに同化されていく。そういう人達が一定数増えると、その存在に世界の外にいるバエスクが気づいて、自分の欠片と合体するために境界を破ってくるという話ね」

「はあ。そのバエスクがこちら側に来たら、どうなるんですか」

「バエスクの侵入規模によって違うけれど、バエスクは何でも食べるから。まあ、この国が列島ごとなくなる、もっと悪ければこの地球という惑星がなくなるくらいかしらね。私は一度だけ直接見たことがあるけれど、その時は三つの国が消滅して、バエスクが撤収した後は大地に直径五千キロのクレーターが残ってたわ」

「はあ……。大変なんですね」

 どの程度深刻さを理解しているのか、風原のコメントはいつものように気の抜けたものだった。

「というかこれ、委員会案件じゃね。あっちに報告しといた方が良くねえか」

 鋼が言う。

「筋としてはそうなんでしょうが、我が社に話が回ってきたということは、我が社が片づけるべき案件ということでしょう。という訳で、皆さん、頼みましたよ」

 大路は気楽に言って、おにぎりせんべいをパリリと齧った。

 

 

  三

 

 夜。

 最初の調査エリアとして池袋を選んだのは、渋谷が『若者の街』であって鋼達のまとう雰囲気とは合わないからだ。それを鋼が口にすると、水上は一瞬凄く恐い顔をした。

「教団の正式な構成員がいると、手ごわいんだよなあ。カイストだし、なかなか死なねえし、手足切り落としてもすぐ再生するし」

 地下鉄で移動中に鋼が言った。水上が軽い隠蔽処理を掛けているお陰で注目はされない。

「後、番号つきの『指』がいるとかなり厳しいわ。所長の加護があっても絶対に気を抜くべきじゃないわね」

 水上が応じる。質問したそうな風原に、鋼が説明する。

「『指』ってのは教団の幹部クラスの奴らだ。『第三の指』とか『第十一の指』とか呼ばれる。触手漬けで歪んじまってるがそれでもAクラス相当だから、本来ならその世界にいるカイスト総出で向かわないとまずい相手さ。まあ、もし『指』がいるならの話だがね」

「そういうことを言うと本当にいそうなんだけど」

 水上は嫌そうに口元を歪めた。

 三人は池袋駅で降り、繁華街を歩く。風原はスポーツバッグを持っていたが、中に何が入っているのかはやはり聞かされていなかった。落ち着いている鋼と水上と違い、風原はキョロキョロ周囲を見回しながら歩くのでいかにもお上りさんという雰囲気を醸し出していた。しかし観光や出張で訪れた客も多く、隠蔽処理も加わって目立つことはない。

 呼び込みの声を聞きながら裏通りに入る。鋼と水上は黙って視線を交わす。風原は何も分からずただついていく。

 柄の悪い若者が五人、狭い場所にたむろしてお喋りしている。煙草を喫っている者もいて、地面に大量の吸い殻が落ちていた。随分長い間そこに留まっているようだ。

「おーい、ちょっといいかぁ」

 鋼が片手を上げて気楽に声をかける。若者達は胡散臭そうに見返し、それからその視線は水上に移った。

「へぇ、いい女じゃん。一緒に飲みに行かねえ、奢るよ」

 早速のナンパに水上は白けた表情で目を逸らす。若者達の視線を遮るようにスポーツバッグを抱えた風原が割り込んだ。自分が恋人立候補した女性に粉をかけられて怒っている、というふうでもなく、かといって緊張している様子もなく、ただ焦点の合っていない虚ろな目をしていた。何かの拍子に行方不明者が出てしまってもおかしくない不気味な気配が漂い始めている。

 それを察知した鋼が風原の前に更に割り込んで、直球過ぎる質問を投げた。

「なあ、『青リンゴ』持ってねえか。あるなら売ってくれよ」

 煙草は甘酸っぱい匂いを誤魔化すためでもあった。

 若者達の表情が一瞬固まる。それからどのように変化するか。警察の囮捜査を疑い、分からないふりをして追い返すか。それとも普通に笑顔でシートを取り出すか、或いは一斉に逃げ出す可能性もあった。どんな反応でも問題はなかった。水上が魔術的な紐づけを行い、彼らが上に相談に行くのを追跡してもいいし、彼らが動かなくても痕跡を辿っていくことは可能だ。そして、いきなり攻撃されることも想定内だった。

 想定と異なっていた点は、攻撃が若者からではなく、鋼達の後方のマンホールから来たことだ。丸い蓋が僅かに開いた瞬間、数十本の触手が凄い勢いで伸びてきたのだ。これまで全く気配がなかったのに。

「チィッ」

 鋼の反応は見事なものだった。似たような不意打ちは最近経験済みだ。水上と風原が触手との間にいて邪魔だったが、鋼は素早く横に跳び、仲間に当たらないようにして手首から剣を伸ばす。水上の足首に絡みそうになっていた触手が切り落とされ、後続の触手は見えない壁にぶつかったように一瞬止まる。鋼の動きで襲撃に気づいた水上が、準備していた防御結界を即時作動させたのだ。そこに鋼が追撃してまた数本切り落とす。

 が、全部片づけないうちにマンホールから更に数十本増援される。幅一、二センチほどの細い触手だが異常なしなやかさとスピードだった。水上が風原を押しつつマンホールから離れ、鋼が両手両足から刃を伸ばして穴の隙間に突っ込んだ。

 瞬間、断ち切られたものを残して全ての触手が凄い勢いで引っ込んでいった。鋼が蓋を蹴り飛ばして慎重に覗き込むが、汚れた深さ一メートルほどの縦穴があるだけで、襲撃者の姿はなかった。

「地中を潜って逃げたか。もう気配もねえ。相当な手練れだな。Aクラスほどじゃないにせよ、幹部級に近いんじゃねえか」

 鋼は顔をしかめた。地面を吹き飛ばして手当たり次第に捜し回っても、その間に敵は遠くへ逃げているだろう。

 水上が言った。

「こっちもダメね。本人達は逃げようとしていたけれど、すぐに自爆したわ」

 裏路地は真っ赤になっていた。防御結界のお陰で直接はかからなかったが、水上の足元にも無数の肉片が散らばっている。爆薬ではなく、若者達の体内に潜んでいた触手が宿主を巻き込んで破裂したらしい。

「辿れそうにないか」

「辿れないことはないと思うけれど、時間はかかりそう。追跡を振り切るために自爆させたんでしょうから」

「その間、奴らがどうすると思う」

「そうね。討伐の手が伸びていることを知ったら、急いで儀式を始めてしまうんじゃないかしら。多分、今夜中に」

「だよなあ……。猶予がなくなっちまったな」

 鋼は頭を掻いた。

「人間って、破裂するんですねえ。行方不明よりは跡が残るからいいのかな」

 風原は肉片を見て不穏なことを呟いていた。

「さて、どうやって奴らのアジトを見つけるか。所長に電話してみるか」

「それだとここに来た意味がない気がするわ。……ちょっと待って」

 水上は目を細め耳を澄ませる。鋼も黙って待った。

 表の通りで大勢の人々が喋りながら歩いている。

「そっちじゃない、こっちね。ラーメン屋を右で……」

「スパゲッティって言うと怒られるんだぜ。パスタだって」

「生野さん、そのシャツさ、裏返しじゃない。ああ今着直さなくてもいいから……」

 鋼が不精髭の生えた顎を撫でた。

「ラーメン屋を右で、パスタ屋……いやイタリア料理屋か。その裏ってとこかな」

「辻占って言うのよ。実際には『無手勝』の力に頼ってるのだけどね」

「所長の体重が今のでどのくらい減ったかな。のんびり寝てて気づいてないかも知れんが」

 そんなことを話しながら鋼と水上は表通りへ向かう。風原はスポーツバッグを抱え静かについていった。

 

 

  四

 

 アッファマートというイタリア料理店の裏に古いテナントビルがある。空きが多かったが最近一階のコンビニまで潰れてしまい、今営業しているのは地下一階のクラブだけだった。

 ノリの良い音楽が流れ、天井に吊られたミラーボールが回転しながら薄暗い店内を照らしていく。ゆったりと飲んでいる客もいるが中央のダンスエリアで踊り狂っている客もいる。今いる客は五十人ほどか。

 そんなクラブに入店するが、席について酒を注文するでもなく踊るでもなく、そのまま右奥へ入っていく者達がいる。彼らは既に酔っ払っているようなトロンとした目つきで、しかし顔は赤くない。ユラユラと上体を揺らしながら歩き、それを見た他の客が「何だあいつら、ゾンビみたいだな」と笑っていたが、言われた方は気にする様子もなかった。

 右奥は個室が並んでおり、彼らは最奥にある個室のドアを開けて入っていく。テーブルや椅子があるが、無視して左の壁に触れた。

 ある程度の力を込めて押すとカチリ、と音がして隠し扉が開き、地下二階への階段が現れる。

 儀式の場は亜空間であってはならないため、わざわざ地中を掘り抜いて作ったホールだった。

 バエスキア教団はカイストが運営する組織ではあるが、疑う余地がない世界の害悪として、あらゆるカイストから蛇蝎の如く嫌われていた。教団員が見つかれば総勢で襲いかかって拠点ごと殲滅するというのが通例になっている。そのため、バエスキアも隠れて活動することに慣れていた。バエスクを体に取り込んで脳味噌が茹だっているので粗は多いが。

 池袋一帯には探知士の教団員による感知の網が薄く張られていた。バエスクの欠片を混ぜ込んだ『シート』を現地の官憲が探っていないか、そして教団員以外のカイストが調べに来ないかを常に監視していた。官憲については暫く放置でも支障はない。調べに来たのがカイストで、やり過ごせそうになければ始末するし、始末出来なければ、或いは始末してもこちらの存在が広まってしまうようなら速やかに儀式を完遂する。そういう方針が確立していた。

 シートを食わせた現地の一般人達はただの餌なのでどうでもいい。教団員のカイストはここで死んでも転生先でまた合流して活動を再開する。委員会に捕獲され無限牢に放り込まれた教団員も多いが、バエスクの与える快楽に魂を掴まれているので無限牢を怖れて脱退する者は殆どいなかった。

 バエスクという世界の外の怪物に捕食される時、何故気持ち良くなってしまうのか。諸説あったが、最終的にはAクラスの検証士が結論を出した。魂の中に構築された強固な秩序が、混沌によって侵蝕され崩壊する根源的な苦痛と恐怖。それを緩和するため魂が自発的に快楽に転換させているのだと。つまり破滅への道を転がり落ちているだけなのだが、そんな事実を突きつけられたところで教団員の魂には響かないのだ。

 感知の網はクラブの入り口と個室への廊下、そして隠し扉にも張られている。体内で成長中のバエスクの欠片を介して緊急招集をかけたため、都内の餌達が続々と集まりつつあった。現時点で儀式の場に六百人、一時間以内には千人に届くが、残り二百人ほどは間に合わないだろう。

「ザー、グード、ドアルゼ、ザー、バエスク。ジー、ゲムザ、ゴルゼル、ジー、バエズグ」

 カイストの教団員とある程度指導を受けた餌達がバエスクを称える呪文を唱え続ける。それぞれの単語に意味はなく、ただバエスクには濁音、特にざ行が好まれるという経験則によって形成されたものだ。勝手に名づけられた「バエスク」を「バエズグ」に正式変更しないか、一時期教団内で真剣に議論されたほどだ。

 薄暗いホールの冷たい床で、餌達は配られた追加のシートを食らって陶酔し、ユラユラ、グネグネと体を揺らしている。それをステージから見渡して『バエスクの第十七の指』は呟いた。

「少々厳しいな」

 やや舌足らずの湿った声だった。舌が触手と化しているので発声はしにくくなったが、瞬時に五メートルも伸びて敵の喉を食いちぎるのは得意になっていた。

 元の名も捨て、幹部の『指』に昇格してから十四億年。バエスクの欠片を取り込み、またバエスクに食われるごとに魂は変質し、肉体も魂に沿って変質するため何度転生しても彼は触手まみれの怪人となった。もっと若くして単なる触手の塊と化してバエスクに溶けていった幹部もいるし、一応人間らしい形を維持している彼は頑張っている方だろう。全ては、耐えに耐え抜いた果て、自我が消滅する際に最高の快楽を得るために。

「御指(みゆび)様。我ラガ神ニゴ降臨頂グニバ足リマゼヌガ」

 今回の助祭司が尋ねる。シートのことを嗅ぎ回るカイストを襲撃したが始末し損ね、急いで報告に来たのが彼だ。ローブの下では既に全身が触手化しており、それを無理矢理人の形により合わせている。人前ではカツラと仮面をかぶっているが、声も変質して濁音が目立ってきており最早誤魔化しの効かない状態に堕ちていた。力量としてはBクラス上級、もう少し力をつければ『指』に欠番が出た際の昇格資格を得られるかも知れないが、おそらくその前にバエスクに溶けて消えるだろう。

「うむ。ご降臨下さるとしても小規模なものになろう。この町一つ分か、或いは都市一つか」

「今回バ仕方アリマゼヌナ。イズレ大儀式デ沢山食ベデ頂グマデノ繋ギドイウゴドデ」

「うむ。仕方あるまい」

 『バエスクの第十七の指』は頷き、自らもバエスクを称える呪文の詠唱に参加する。

「ザー、グード、ドアルゼ、ザー、バエスク。ジー、ゲムザ、ゴルゼル、ジー、バエズグ」

 体を揺らしている餌達の幾つかが、手足や首筋から触手を伸ばし始めた。餌達は皆トランス状態に陥っているため、触手を見ても驚く者はいない。呼応するように他の餌達も次々と触手を伸ばしていく。隣の餌の体に食らいつく触手もあるが、彼らは既に痛みなど感じなくなっている。

 至高の快楽に浸ったまま死ねるとは、彼らは何と幸せなことだろうか。

「ザー、グード、ドアルゼ、ザー、バエスク。ジー、ゲムザ、ゴルゼル、ジー、バエズグ」

 教団員の詠唱にも力が入る。遅れて参加した者達にもシートが配られ、触手の群れに加わっていく。

「頂きまで後二十分といったところか」

 餌達の精神と肉体の変質と同調が最高潮に達するまでの時間を、長年の経験から目算する。さて、本体のごく一部でも降臨があるかどうか。もしあったならシートの材料として真なる肉の確保もしておこうと『バエスクの第十七の指』は考える。魂に繋がっているので、食らわれながら新鮮な触手を引きちぎっていれば転生後に持ち越せるのだ。

 と、傍らに立つ助祭司の肩がピクリと動き、ほぼ同時に彼も気づいた。クラブに部外者のカイストが侵入したことを。

「予想より早かったな。隠し扉もすぐ見つかるだろう」

 更に予想外だったのは、侵入してきたのがBクラスたった二人ということだ。もう一人ついてきているがこれは一般人だ。本来なら委員会の殲滅部隊が急襲してきてもおかしくないのだが、出撃準備に手間取っているのか。それとも、単に舐められているのか。

 怖れられるのは良いし、愛されるのも良いが、舐められるのは良くなかった。

「始末ジデ参リマズ」

 助祭司が風のように入り口へと向かった。全身を変形させて蛇のようにくねらせ、空中でも地中でも異常な速度で移動する。一対二でも大抵のBクラス相手なら無難に勝てる筈だ。

 その助祭司の姿が階段へと消えて二秒後、呻き声と共に彼の急所が断たれる感触が伝わってきた。教団員達は同化したバエスクによって感覚をある程度共有しており、欠片を食わせた餌達よりも伝わる情報量は多い。

 勝負に絶対はないとはいえ、ただの一合で決着するのはおかしかった。バエスクとの同化率が高まり触手ばかりになった助祭司の肉体は、不要となった脳や心臓が退化していき、急所の核は触手の塊の中で自在に配置替え可能だ。攻撃が偶然急所に当たったのか、或いは認識不能の魔術が働いているのか。

「侵入者を殺せっ」

 命令は声だけでなく体内のバエスクを通じて伝わり、餌達が一斉に立ち上がる。手足や首、更に育つと口内や腹壁からも伸びる触手はバエスクの一部であり、カイストの我力防壁を貫いて殺すことが可能だった。

 既にクラブ内で餌達との戦闘が始まっており、まともな客達が悲鳴を上げている。餌達の触手と命をあっさり切り落として敵が階段を駆け下りてくる。『バエスクの第十七の指』はローブの袖から触手を伸ばして戦闘準備を整える。どぎつい極彩色の触手は本来のバエスクに近づいたことの証だ。元はAクラスの錬金術士で直接戦闘が得意ではなかったが、偉大なるバエスクの加護は全ての敵を凌駕する。

「こんばんはーっ、殺しに来たぞーっ」

 威勢の良い太い声がホールに響き、屈強な肉体の男が手足から触手でなく刃を生やして儀式の場に飛び込んできた。

 『バエスクの第十七の指』はホール内部に張り巡らせた数百本の触手を一斉に突き入れた。

 

 

  五

 

 凄まじいスピードで迫る極彩色の触手群にさすがの鋼源十郎も胆を冷やした。全てが一人の魔人の意思でコントロールされているため逃げ場となる隙間がなく、邪神に限りなく近づいた触手は容易には切り払えない我力の強さを感じさせた。下りてきた階段を駆け戻って逃げる選択肢は、後ろからついてきている水上と風原を危険に晒すだろう。瞬時に判断し覚悟を決め、鋼は低い姿勢で床に身を投げ出しつつ最も近い触手数本に全力で刃を叩き込んだ。案の定硬い感触だったがなんとか切断し、空間座標確保からの蹴り足で勢いをつけ、頭から床に潜り込んだ。土を掘り抜いた後で軽く硬化処理を施した床は、カイストの肉体を包む我力防壁に押し砕かれて水飛沫に似た破片を散らす。それで二十センチほどの隙間を稼いだ訳だが、極彩色の触手の主がただ見ている筈もない。数百本の触手は軌道変更して鋼の背中へと殺到する。

 黒い光が一閃し、その触手の三割を切断した。残りの七割は素早く左右に広がって避けている。

 ホールに到着した水上麗羅は左手に水晶の右手を握っていた。指と指を絡めて握手するように持つ。薄闇の中でぬめるように輝く水晶の手の、人差し指の先端から黒い光は発せられたのだった。切り落とされた触手はビチビチと床でのた打ちながら、断端から塵となって消えていく。本体側の断端も消えていくため、バエスキアの祭司はその手前で触手を自切した。

「水晶の手か。その力、連発出来るかな」

 ホール奥のステージに立つ祭司が舌足らずな声で言った。灰色ののっぺりした顔で、目は瞳がなくガラス玉を詰めたみたいだった。両袖からそれぞれ三、四百本の触手が伸びているが、必要とあれば別の箇所からも触手が追加されそうだ。

 水上は答えず、ただ口元を皮肉に歪める。調整の努力は続けているが、入手してほんの二ヶ月程度で使いこなせる筈もない。消耗の問題だけでなく、制御を誤れば自身も味方も殺す恐れがあった。

「チィッ、やっぱり『指』がいるじゃねえかよ」

 鋼が吐き捨てた。まだ新しい肉色の触手を生やした信者、ではなく中毒者達が押し寄せてくる。跳ね起きた鋼が手足の剣を振るい、次々に触手と首を切り落としていく。中毒者達の生首は最期まで恍惚とした虚ろな顔をしていた。そこに混じってカイストの教団員、そして祭司である『指』の強力な触手が襲う。

「もうちょっと下がれっ」

 鋼は振り返る余裕もなく水上へ叫ぶ。肘や膝、更には首筋からも刃を生やして忙しく立ち回っているが、全ての触手は防ぎきれず傷が増えていく。特に教団員の触手は先端に口が出来ていて、鋼の皮膚と肉を丸く食いちぎっていった。それでも『指』の極彩色の触手を優先して防ぐ。中毒者の陰からその胴を貫通して襲った触手も鋼は読みきって弾いた。バエスキアが一般人を餌・囮・肉壁として使うことには定評があったのだ。

 水上は二歩下がり、ちょっとした判断ミス一つで惨死する超危険エリアから、ミスが一つ半くらいで惨死する危険エリアまで退避した。触手群の動きが速過ぎて魔術士では目が追いつかないのだ。なので防御結界を少しでも維持強化して自身と仲間を保護しようと努めている。雑魚の触手はそれで弾かれたり動きが遅くなったりするが、極彩色の触手は明らかに格上で、ほんの僅かに減速させるのが精一杯だった。

 水晶の手からも再度破滅の黒い閃光を飛ばし、ホール内にいた八百人ほどの中毒者の約半数を輪切りにし、更にその半数を塵に変えた。連発出来るかと言われたため、余裕で出来ると見せておかねばならなかったのもある。実際には今のは危なかったと内心ヒヤヒヤしていた。制御しきれずに鋼の足を切りそうになっていたのだ。『無手勝』の加護がなかったら本当に切っていたかも知れない。

 その閃光を、『指』の触手の殆どが躱していた。素早く躱した後にまた素早く襲う。鋼が冷や汗を滲ませながら迎撃する。隙を衝いたつもりで飛びかかってくるカイストの教団員はズッパズッパと触手ごと八つ裂きにされて床を蠢いていた。

「むう」

 『指』が唸る。格下と見えたのに鋼が異様にしぶといためだ。戦闘開始から約十秒、既に鋼の全身は食いちぎられた丸い傷が二百以上になり血まみれだが、動けなくなるような深手は負っていない。超高速で襲う無数の触手のうち、どの攻撃が危険で致命傷になるのかぎりぎりで判断してしのいでいる。『指』は自身の肉体を更にほぐして触手を追加した。

 熟練の戦士にしか捉えきれぬ触手と刃の応酬が、ズガガガガガ、と音の連撃になってホールに響く。中毒者達の殆どは倒れ伏し、バラバラ死体から伸びた触手がグネグネと這っていた。死した中毒者はバエスクの本体を呼ぶ餌として機能するかどうか。入り口付近の壁は戦闘の余波でメタメタに崩れ落ち、水上は更に一歩下がった。右手が亜空間ポケットから術を封じたカードを取り出して発動させ、防御結界を重ね掛けする。半端な攻撃魔術が通用しないことを彼女は悟っていた。

 風原真はいつの間にかホールの隅で、大人しくスポーツバッグを抱えて座っていた。鋼達は風原に気を配る余裕もなくなっており、教団員達はどうでもいい一般人より敵カイストの打倒に注力していた。放置された風原は不思議そうに首をかしげ、全身から触手を伸ばしたステージ上の『指』を眺めていた。

「うーん……なんだか……」

 それからスンスンと鼻をヒクつかせ、「甘酸っぱい」と呟く。残念ながら、聞いている者はいなかったが。

 鋼がジリ貧で追い詰められてきたため、水上は水晶の手から黒い閃光を放つ。何人か教団員を倒すが、読んでいた『指』の極彩色の触手は全て躱し、閃光がやんだところで一斉に襲う。そこにまた黒い閃光が飛び、触手の一割ほどが断ち切られた。これで四発。水晶の手に魔力を吸い取られ、水上の顔色は真っ青になっている。ここから先は命を絞り出さねばならないだろう。或いは、魂まで。

 際限なく傷を増やし血を流しながら、鋼は歯を剥いて野獣のような笑みを浮かべていた。強がりでもあるが、なんとか死地を乗り切れると信じているのだ。

 それは、ステージの上で起きた。

 ステージ正面の壁には大きなタペストリーのようなものが掛かっていた。一見極彩色の絵の具を適当に塗りたくったような抽象画であったが、実際にはバエスクの触手のうち小型のものを採取して貼りつけた代物だった。本体を世界の内側に呼び込むためのアンカー。そこから少しずつ欠片を削り取って『シート』を作っていた。

 その厚みのあるタペストリーの中央部がグネリ、と盛り上がり、『指』が「おおっ」と歓喜の声を発して振り向いた。

 瞬間、触手の攻撃が緩む。鋼は一発逆転を狙いステージへ全力で跳躍するが、さすがに『指』も即対応して触手の束で叩き落とされた。

 タペストリーに、ピシリ、と縦の亀裂が走る。亀裂は上下に拡大していき、タペストリーをはみ出して壁まで裂けていく。裂け目から覗くのは見通せない暗闇で、しかしそれはすぐにどぎつい黄や赤や青のまだらに変わる。裂け目から骨まで凍るような冷気が染み出すのは錯覚か、それとも現実か。

「まず、い……」

 水上麗羅の呻くような声が虚空へ落ちる。

「おおっ、ご降臨下さったぞっ」

 生き残っていた数人の教団員が鋼達を放って、触手を踊らせながらステージへ駆けていく。

 ビジュリ、と、湿った音がして、裂け目に覗く極彩色が、現実世界に溢れ出してきた。

 カイストの強者や魔獣を相手にするのとはまるで異なる気配に、鋼と水上の全身に鳥肌が立つ。敵意や食欲、そういう意思や感情も感じ取れず、無数の触手がただヌメリとした存在感を伴って空間を広がっていった。

 『指』の触手に似ているが細いものから幅二メートル近いものまで、先端についた丸い口には牙などなく、ただ奥に黒い闇が覗いていた。真の混沌は法則が通じないため何も見えず何も聞こえないという。接する者は自身の枠組みが脅かされる得体の知れない恐怖を感じるのみだ。

 溢れ出した触手の津波に、最も近くにいた『指』の司祭がまず食われた。全身を食いちぎられバラバラになって呑み込まれていく。

「おお、ありがたや、ありがたや……」

 『指』ののっぺりした顔は喜悦に歪み、消え去るまで感謝の言葉を唱えていた。

 続いてカイストの教団員達が進んで触手の津波に飛び込んであっけなく食われていった。圧倒的な極彩色の死が、あっという間にホールを埋め尽くし迫ってくる。立ち上がった鋼は手足の剣を構え最後まで抗戦の態勢であった。たとえコンマ一秒後には全身を貪り食われ、その報酬が切り落とした触手一本か二本だとしても、彼に尻尾を巻くという選択肢はなかった。

 その怒涛の触手が、鋼の眼前五十センチほどで、唐突に停止した。どぎつい色彩の大小の触手が壁となってゾワゾワと蠢きながら、襲ってはこない。

「おかしい」

 呟く声に、鋼と水上はホールの手前の隅を見る。戦闘に必死で存在を忘れていた仲間を。

 風原真は立ち上がっていた。スポーツバッグを抱えて、目を一杯に見開いて。しかしその表情は怯えとは違っていた。

「なんか、覚えがある。おかしい」

 ギギ、ギギ、とぎこちなく首を回して触手の壁を見渡し、彼は言った。

「こいつを知ってる。おかしい。こいつを知ってる。おかしい。おかしい。知ってる」

 ガックン、ガックン、と、風原の首が今度は上下に揺れる。俯いては顔を上げて触手を睨み、また俯いては顔を上げる。それを延々と、繰り返す。

 と、触手の壁が一斉に退いていく。出てきた時よりも素早く引っ込んでいき、タペストリーの中心に吸い込まれ、壁にまで広がっていた空間の裂け目がピッタリと閉じて、静かになった。

 がらんとしたホールには、食べ残された僅かな肉片だけが残っていた。

「あれっ。帰ってったぞ」

 鋼が呆然と呟いた。

「おかしい。こいつを知ってる。知ってる。おかし……」

 壊れた人形のようだった風原が、突然バタンとぶっ倒れて動かなくなった。

 ポカンと口を開けて固まっていた水上は、力が抜けて水晶の手を取り落とし、慌てて空中で受け止めた。

 

 

*** ドラッグ『青リンゴ』事件 業務記録 ***

 

・依頼人:横井誠司。三十九才。警視庁捜査一課の刑事。

・依頼内容:都内で怪しいドラッグが広まっているので東京を平和にして欲しい。

・経過と結末:『青リンゴ』と呼ばれるドラッグには邪神バエスクの欠片が含まれていた。早急に対処すべきと判断、『青リンゴ』が見つかった池袋で聞き込みを開始したところ早速バエスキアに襲撃された。急いで儀式場を特定し踏み込んだが、教団員と中毒者の激しい抵抗に遭った。儀式は途中であったもののバエスクがこちら側に侵入。しかし、何故かすぐに撤退した。

・報酬:五千円。

・今回の被害:『青リンゴ』中毒者が八百人程度、戦闘により死亡。また、儀式場に未到着だった中毒者約四百人はその後委員会に捕獲され、変質が進んでいた者は始末された。変質が軽微であった百数十名はバエスクの欠片を除去、記憶処理されたということである。

・今回減った体重:二十八キロ程度。

 

・各所員の感想(個別提出)

 鋼源十郎:風原のことなんだが、いい加減検証士に調べてもらった方が良くないか。『行方不明』になるかも知れんけど。

 水上麗羅:一般人だと思っていた同僚の得体の知れなさに、正直……いえ、何でもありません。

 風原真:覚えてないのですが、スポーツバッグが何か活躍したんでしょうか。

 

・所長としてのコメント:今回は恐怖の大王ではなかったんですね。なら次に期待しましょう。

 

 

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