晴れた日の午後、黒贄礼太郎は大きな杵を持って事務所のビルを出た。
「お出かけですか」
道端の肉片を箒で片づけていた男がにこやかに声をかけた。
「はい、天気もいいのでちょっと大殺戮でもしようかと思いまして」
黒贄は杵を振った。男の頭がちぎれ飛んだ。
「さーて、今日は頑張るぞー」
表通りでは大勢の人が行き交っていた。黒贄はそのど真ん中で杵を振り回し始めた。
「そりゃペッタンペッタン」
ドギャッ、グジャッ、と通行人の首が飛ぶ。潰れた頭部が建物の壁にへばりつく。人々は悲鳴を上げて逃げ出した。
「ほいペッタン、こりゃペッタン、ほっペッタン、もいっちょペッタン」
黒贄がもぐら叩きの要領で人々の頭に杵を振り下ろしていく。頭を胴にめり込ませた死体が次々に倒れる。
「ペッタンペッタン、ペッタンペッタン」
黒贄が血みどろの杵をメチャクチャにぶん回す。人々の首が飛ぶ腕が飛ぶ胴に穴が開く内臓が飛び散る血飛沫が爆ぜる。
「ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン」
黒贄は杵を振りながら大通りを駆ける。逃げ惑う人々を残らず叩き殺し、ドミノ倒しのように死体達が倒れ伏していく。黒贄の通った後には赤い肉の絨毯が出来た。運転手が屋根ごと頭を打ち抜かれ、車が蛇行して壁に激突する。杵をスイングする風圧で窓ガラスが割れ、やがて壁に亀裂が走り建物が倒壊していく。
「ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン」
生に満ち溢れた街が死の廃墟に変わっていく。黒贄は笑顔で赤い杵を振り続ける。世界が赤く塗り替えられていく。
「ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン……ハッ」
黒贄は飛び起きた。薄暗い部屋、安物のベッドの上に彼はいた。隣の部屋からは助手の鼾が聞こえる。
「夢か……夢で、良かった……危ないところでした……」
黒贄は全身にじっとり汗をかいていた。
「仮面もうまい奇声もなしで、人命を浪費してしまうところでした……」
黒贄は安堵の息をついた。まだ真夜中だったので、彼は布団をかぶり直して再び眠りに就いた。