第十四段 事なかれの詩

 

 事なかれ 事なかれ

 

 俺は無難に生きたいんだ トラブルなんて見たくない 事を荒立てるのはやめてくれ わざわざ波風立てるな馬鹿

 問題は先送りしたいんだ 俺の代で起きると困るんだ 俺じゃなくても誰かがやってくれる 尻拭いは誰かがやるさ いつか誰かが 俺は御免だ

 取り敢えず誤魔化しとけ その場だけうまくしのげ みんなやってるじゃないか 他人のことなど知ったことか 未来なんてどうでもいい 今俺が無事ならいいのさ

 

 ああ 事なかれ 事なかれ

 

 大変なことになるかも知れない でもならないかも知れない 確率に賭けてみよう 俺はギャンブラーだ お前らだってそうなんだろ

 いいじゃないか 暗黙の了解という奴さ 誰も責任を取らない 勿論俺も取らない 全力で言い逃れてみせる それで大丈夫な筈だ みんなそれで大丈夫だったのだから なあ そうなんだろ

 誰かがなんとかしてくれるさ きっとなんとかなる ならなくても俺のせいじゃない

 

 さあ 事なかれ 事なかれ

 

 楽したい 楽して得したい 苦労したくない 万一のことなど面倒臭い 責任取らず金だけ欲しい

 目をつぶろう 耳を塞ごう そして祈ろう どうか何事も起きませんように 俺が無事にやり過ごせますように

 それでももし何か起きたら もし俺が責任を取らされることになったら もういいや 人類なんて滅んじまえ

 

 

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