第十七段 あなたに似た人

 

 あなたに似た人に会いました。

 コーヒーカップを持つ左手の仕草が、その繊細な小指の角度がとてもあなたに似ていて、私は胸が切なくなりました。

 だから殺しました。

 あなたによく似た左手は、切り落として壺に入れました。

 笑顔があなたに似た人の、顔の皮膚を剥いで壺に入れました。

 眼差しがあなたに似た人の、眼球を壺に入れました。

 耳の形があなたに似た人の、耳を壺に入れました。

 声があなたに似た人の、舌と喉を壺に入れました。

 振り向く動作があなたに似た人の、後頭部と背中の筋肉を壺に入れました。

 あなた。愛しいあなた。

 あなたの肉体はなくなってしまったけれど、存在が消えてしまった訳ではないのですね。

 あなたは世界に溶け込んで、あなたの欠片は世界中の人々に宿っているのですね。

 私はあなたの欠片を回収しています。回収して、大きな壺に詰めています。

 いつか、充分なくらい欠片が集まったら、あなたはきっと、戻ってきてくれるのでしょう。

 だから私は今日も、あなたに似た人を探しています。

 

 

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