男は四才になる息子の前にしゃがみ、その目を真正面から見つめて尋ねた。
「こちらからは見えている。そちら側からも見えているか」
「見えてるよー」
息子はニコニコして答えた。
「そうかそうか。よーし、よーし。俺は独りじゃなかったんだなあ」
男は満面の笑みで息子の頭を撫でた。息子も嬉しそうだった。
「じゃあ父さんはお昼ご飯を作るからな。大人しくテレビを観てるんだぞ」
男は台所で料理の準備を始めた。鍋で湯を沸かし野菜を切る。ハムを切ろうとしてふと男は顔を上げた。
包丁を置いて台所を出ると、男はアニメを観ていた息子の前に回り込んだ。
「こちらからは見えている。そちら側からも見えているか」
「うん、見えてるよ」
真っ直ぐに見据えてくる男に、テレビの方を気にしながらも息子は答えた。
「そうか、良かった良かった」
男はまた笑顔になり、息子の頭を撫でてから台所に戻った。
湯が沸騰していた。男はうどんの袋を開けようとして、ふと顔を上げた。
男はまた台所を出て、息子の前に回り込んだ。
「こちらからは見えている。そちら側からも見えているか」
「んーもう。お父さん邪魔。見えないよ」
アニメ鑑賞を邪魔され、息子は口を尖らせて文句を言った。
男の表情が消えた。黙ってリビングを去り、少しして戻ってきた時には斧を持っていた。
「信じていたのにっ」
まだアニメを観ていた四才の息子の脳天に、男は背後から斧を叩きつけた。
「そちらからも見えているとっ、信じていたのにっ。他人にも意識があると。魂が存在するとっ。向こうからも、ちゃんと、見えてるのだとっ。見えてないのなら、そちらから見えてないのなら、ただの機械じゃないかっ」
男は叫びながら、息子の体に何度も何度も斧を打ち込んだ。泣き笑いに歪んだ男の顔は、返り血でグチャグチャになっていた。
「孤独だ……」
男は息子の死体を地下室まで引き摺っていき、壁の空きスペースにモルタルで塗り込めた。
息子の死体の隣には、二年前に殺した妻の死体が収まっていた。