第二十五段 いずれ混沌の海で

 

 友よ。

 混沌の海に頼りなく漂う秩序の小舟。

 これが、世界である。

 無から宇宙が生まれる筈もなく、元々何かはあったのだ。

 我々が時と呼ぶものが始まる前にも、何かはあった筈なのだ。

 最初から何もなければそれでも良かった。空間も時間もなく、それに気づく自分もそもそも存在しないのだから。

 だがこうして世界が存在するからには、元々何かが存在するということになる。

 何かとは、全てである。

 形容出来ないものを含む、空間や時間や法則の枠組みに囚われない、全てがあるのだ。

 全てが入り混じった混沌の中から、奇跡のような偶然で生まれた秩序がこの世界である。

 それは偶然ではあるが、必然なのだ。何故なら、混沌には全てがあるのだから。

 果てしない混沌の海に浮かぶ頼りない小舟に必死にしがみつく、小さな小さな虫。その虫の表面にへばりついた微生物。それが、我々である。

 いずれ我々は生を終える。

 いずれ船も沈む。法則は失われ、空間も時間も崩壊し、世界は混沌に溶け戻っていくだろう。

 我々が、生きている間に、何を成したか。何を成せなかったか。何を感じ、何を想ったか。それらは皆溶けていく。

 達成感も悔いも、愛情も憎しみも思い出も全て溶ける。意識さえも分解されるだろう。

 そして我々が存在したという痕跡も、世界の崩壊と共に溶けていく。

 だがそれでも、我々が消えることはないのだ。

 混沌には全てがあり、我々は、混沌の一部である。

 だから、いずれまた会おう。友よ。

 

 

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