第九段 頭の中の出来事

 

(私がいる。小人がいる。小人はホワイトボードに文を書く。私に見せる。「現実は本当に存在するのだろうかと私は思う。」と書かれている)

 現実は本当に存在するのだろうかと私は思う。

(小人はホワイトボードの文を消す。新しい文を書く。私に見せる。「他人は本当に存在するのだろうか。今日会った人が昨日と同一人物だとどうやって証明するのだろう。これが私の見ている夢ではないと、誰も証明することは出来ない。夢の中の登場人物の言葉など信用出来ないのだから。」と書かれている)

 他人は本当に存在するのだろうか。今日会った人が昨日と同一人物だとどうやって証明するのだろう。これが私の見ている夢ではないと、誰も証明することは出来ない。夢の中の登場人物の言葉など信用出来ないのだから。

(小人が文を消して新しい文を書く。私に見せる。「愛する人が実在しないとすれば私はどうすればいいのだろう。愛する人がいつの間にか別人にすり替わっていて、本当の相手は既に死んでいたり別の世界に迷い込んでいたとしたら。本当にそれを確かめる手段は存在しない。全ては私の感覚でしかないのだから。」と書かれている)

 愛する人が実在しないとすれば私はどうすればいいのだろう。愛する人がいつの間にか別人にすり替わっていて、本当の相手は既に死んでいたり別の世界に迷い込んでいたとしたら。本当にそれを確かめる手段は存在しない。全ては私の感覚でしかないのだから。

(小人が文を消して新しい文を書いて私に見せる。「確かなものは何もない。ならば私はどうすればいいのだろう。何を頼りに生きていけばいいのだろう。」と書かれている)

 確かなものは何もない。ならば私はどうすればいいのだろう。何を頼りに生きていけばいいのだろう。

(小人が文を消して新しい文を書いて私に見せる。「私に出来るのは、信じて生きていくことだけだ。現実がそのまま存在すると信じて。愛する人が実在すると信じて。或いは本当の相手が死んでいたり消えていたり別の世界に迷い込んでいたりしたとしても私の気持ちが届くことを信じて。不確かなこの世界で私は自分に出来ることを、正しいと思えることを悔いのないようにやっていこう。きっとそれでいいのだ。私のこの思考、この意志だけは本物なのだから。私は決心した。」)

 私に出来るのは、信じて生きていくことだけだ。現実がそのまま存在すると信じて。愛する人が実在すると信じて。或いは本当の相手が死んでいたり消えていたり別の世界に迷い込んでいたりしたとしても私の気持ちが届くことを信じて。不確かなこの世界で私は自分に出来ることを、正しいと思えることを悔いのないようにやっていこう。きっとそれでいいのだ。私のこの思考、この意志だけは本物なのだから。私は決心した。

(小人が文を消した。次の文を書こうとしたところで小人は胸を押さえて倒れた)

(小人は暫く痙攣していたが、やがて動かなくなった。ホワイトボードには何も書かれていない)

(小人は動かない。ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

(ホワイトボードには何も書かれていない)

 

 

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